映画『SAYAMA』は
市民により製作され 市民によって上映されていく
映画が完成した今も、ポストに製作協力金の振込用紙が届いています。
2011年暮れによびかけをはじめてから、ほぼ毎日のようにカンパは届きました。その数は900の個人、団体に達しています。全国にじわじわと、人から人へと広がっていったことがわかります。感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。
4年ほど前、ある仕事で、石川一雄さん、早智子さんのインタビューを撮らせていただきました。それが、ひとつの作品になった後、金聖雄監督と私は、どちらからともなく、「石川一雄さんと早智子さんで、映画やってみない?」「やりましょう」という短いやりとりから、この映画づくりはスタートしました。
その時、製作資金は、市民にひろくカンパをよびかけようと思いました。石川一雄さんに思いを寄せる人たちは、私たちがそうであるように全国にたくさんいるはず、その人たちとともに、映画をつくる―――このことによって、この映画は、生命力を宿すことができるのではないか、と思ったのです。
振込用紙にはメッセージが寄せられていました。
「ずっと ずっと気になっていた"狭山"、石川さん。ほんのわずかでも協力できてうれしい」「40年前に事件を知り、 何か出来ること少しでもと思いつづけていました」「『共に!』の思いで参画させてください」
私たちの思いは届いたのです。
狭山事件を追った映画は過去にありました。それはいずれも獄中にいる時に製作されたもので、内容は、石川一雄さんが無実であることを証拠と証言の中から検証し、明らかにしていくというものでした。
石川さんは、逮捕から50年、仮出後から20年近くになりますが、石川さん自身に寄り添い、その声に耳を傾けた作品はありませんでした。石川さんは、仮出獄の翌年に早智子さんと結婚されました。そのあとは二人三脚でともに歩んで来ました。私たちは、夫婦の日々の暮らし、暮らしの底にある思いを撮りたいと、カメラを回し始めました。
撮影は自転車操業状態ではありましたが、みなさんからの暖かいカンパと、そして添えられているメッセージに勇気付けられ、思い通りに撮影を続けることができました。
3年間で撮影された130時間に及ぶ膨大な映像は、105分に編集されました。谷川賢作さんによる曲が画面に奥行きを感じさせます。そして、「50年 殺人犯というレッテルを背負いながら、泣き、笑い、怒り、日々を凛と生き抜く夫婦の物語」は完成しました。
寄せられたメッセージにすべて答えられたとは思いません。しかし、一雄さん、早智子さん、兄の六造さん、ウメ子さん、そしてご両親、"獄友"たち、この映画に出てくる人々の話とつぶやき、ふとした表情に心揺さぶられることと思います。
この映画を心待ちにしていた人たちによって、すでに全国各地で上映会が企画され始めています。ドキュメンタリー映画は、大きなスポンサーがつくわけではありません。もちろん、テレビ局とのタイアップや膨大な広告資金があるわけではありません。興行的な成功は難しいことです。「市民による製作、市民による上映」によって、映画「SAYAMA」は、新しい出会いをつくりだしていきます。
本映画は、下記よびかけ人による「映画製作への支援のよびかけ」にお応えいただいた
約900人の個人、団体の方々からの協力金によって製作されました。
【よびかけ人】 (敬称略・五十音順)
入川保則(俳優・故人)/江原由美子(神奈川人権センター理事長)/落合恵子(作家)
片岡明幸(部落解放同盟埼玉県連委員長)/鎌田慧(ルポライター)/香山リカ(精神科医)
組坂繁之(部落解放同盟中央執行委員長)/小室等(音楽家)/桜井昌司(布川事件冤罪被害者)/佐高信(評論家)
杉山卓男(布川事件冤罪被害者)/趙 博(ミュージシャン)/辛淑玉(人材育成コンサルタント)
菅家利和(足利事件冤罪被害者)/中山千夏(作家)/庭山英雄(弁護士)/松岡徹(部落解放同盟中央本部書記長)
やくみつる(漫画家)